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―分譲マンション大規模修繕  その「特徴」「課題」「対策」―

―分譲マンション大規模修繕  その「特徴」「課題」「対策」―

皆さんがお住まいの分譲マンションで大規模修繕工事の時期を迎えたとします。建物をリニューアルするということだけで言えば、他の建物と大きく変わった点はありません。ただ、分譲マンションの大規模修繕は、さまざまな理由でかなり特殊なジャンルであるということができます。

分譲マンションの皆様が「大規模修繕」というプロジェクトを進める上での、特徴と課題、対策などを整理してみましょう。

供用部管理の意識の希薄さ

ご自身の居室が傷んだり、古くなったりすれば、改修や更新を考えます。「住まいのリニューアル」と聞いて、皆さんが思い浮かべるのは、ご自身が住まう〇階〇号室のご自身の居室ではありませんか?つまり専有部分です。

そして、屋根や壁、廊下やエントランス、階段や駐車場にエレベーター、これらは、居住者全員で所有する「共有部分」となります。もちろん、「共有部分」も定期的なメンテナンスが必要になりますが、専有部分と同じような感覚で、自らの責任でリニューアルしなければとは考えませんよね。「管理会社がやってくれるだろう」「誰かがやってくれるだろう」「自身の家じゃないし直す必要ないだろう」などと、考えていませんか? あなたはそうでないとして、では周囲にそんな方はいませんか?

つまり、専有部分に比べて、人任せになってしまいがちなのです。

ともすれば、無責任になりがちな「共有部分」への認識ですが、それも当たり前。「私たちのもの」であっても、「私のもの」ではないとの思いがあるからです。「区分所有」という特殊な形態の弊害とも思われます。

でも、建物はそこ住まう居住者全員の持ち物であり、あなたの持ち物でもありますので、当然、建物の維持管理義務はあなたにもあります。皆で協議しながらしっかりとメンテナンスを行っていくことが、責任として求められるのです。そもそも建物の劣化が進行し、マンションの資産価値が落ちれば、損をするのはあなたも含めた居住者全員です。

資産価値といってもピンとこない方も、大規模修繕を避けて通るわけにはいきません。「大規模修繕」は、皆さんで積み立ててきた多額のお金を使って行うことになるわけですから、無関心を決め込むわけにはいきません。ともすれば、積立金の不足で、追加徴収がある場合だってあるのです。

合意形成の困難

居住者の皆にある程度の関心が芽生え、大規模修繕の話がチラホラと出始めたとしましょう。さて、ここからが苦労の始まりです。なかなか全員の考えをまとめるのが大変なのが、「区分所有」という特殊な形態を有する分譲マンションの特徴です。

「今やらなくたっていいのでは」「いや、さっさとやるべきだ」、「修繕は最小限でいいのでは」、「先を見据えてしっかりやるべきだ」などなど、人の考え方はさまざま。十人十色というなら意見も10通りあり、合意形成を図る作業は簡単ではありません。

区部所有法の定めるところでは、分譲マンションで大規模修繕を計画する時、管理組合総会を開いて総会決議として承認を得る必要があります。今は、通常の修繕であれば2分の1以上の同意が得られればよいのですが、耐震工事やバリアフリー化工事、また、エレベーター、駐車場の増設や集会室などの拡大、縮小など、現状変更を加える内容があれば4分の3以上の同意が必要になります。

管理会社との利益の相反性

大規模修繕の主役は管理組合であり、このタイミングで役員になった方からは、「こんな大変な時に運が悪い」なんて声もよく耳にします。管理組合が修繕委員会を組織する場合もありますが、確かに管理組合や修繕委員会の役員の方は大変です。多くの場合は、建物の改修工事のことなんてほとんど知らない素人の集団です。

これまでは、いえ、今でもこうした状況に寄り添ってくれるのが、管理会社という存在です。もちろん、管理会社は、清掃や警備を主とする会社もありますし、大規模修繕を主導してくれる会社もあります。これは、マンションと管理会社との契約内容によります。大規模修繕を主導はしなくても、サポートしてくれる管理会社は多いはずです。

しかしながら、大規模修繕となると工事金額が大きいこともあり、管理会社への不信を口にする居住者もでてきます。「施工会社と癒着してマージンを得ている」「最初からグループ会社に工事を回す」など、「大規模修繕あるある」でよくテレビに取り上げられてきた話ではあります。管理組合と管理会社の利益相反を指摘する声は必ず上がってきます。

もちろん、実際にそんな話もあるのでしょう。ただ、管理組合に寄り添ってきちんとした仕事を心掛けている管理会社も多いわけで、そんな話が飛び出すだけで管理組合も管理会社もお互いに不幸になってしまうのです。

管理会社だけでなく、管理組合の理事長と施工会社の裏取引を噂するケースもあります。このように、工事費が多額になるために、修繕の内容や進め方、そして、特に施工者選定に絡んで、居住者間で、管理組合と管理会社の間で、さまざまなトラブルが生じる事例が多いのです。

プロジェクトの伴走者

マンション大規模修繕に臨む管理組合は、総会や理事会を通してしっかりと合意形成を図り、事業の進捗に合わせて居住者にも情報を開示しながら修繕計画を立案し、公明正大に透明性を持って施工会社の選定し、工事に関する告知などもその都度丁寧に行っていく必要があります。決して急いではなりませんし、おざなりに進めてはなりません。

けれど、なかなか一般の住民だけでできることではありません。前述のような理由で管理会社に一任というわけにもいかないとなれば、工事費に直接絡まない第三者にプロジェクトの伴走者として関与してもらうことを考える必要があります。誰を頼ればよいでしょう。

まずは、もう一度、管理会社との組み方を考え直す必要があります。管理組合が計画立案から施工者選定まで、しっかりと自分たちが主体的に進めることとし、管理会社にはあくまでそのサポートとして関わってもらうのはどうでしょう。管理会社は、マンションの躯体について、日頃からさまざまな情報を蓄積していることは事実です。

また、マンション管理士という選択肢もあります。大規模修繕の伴走者として、計画立案や施工者選定も手伝ってくれます。しかし、どちらかと言えばマンション管理士の多くの方の得意分野は管理組合運営やそのアドバイス、会計管理などであり、建築士の資格も有するような方を除いては専門外ということが多いように思われます。

専門コンサルタントと設計監理方式

そこで、登場するのが、設計コンサルタントです。設計コンサルタントは、建物の修繕計画に携わる存在ですが、大規模修繕に精通したコンサルタントは、管理組合の総会での説明や進行をサポートしてくれるなど、管理会社やマンション管理士のような役割を担ってくれたりもします。もちろん、管理会社またはマンション管理士とタッグを組んで、共に管理組合をサポートしてくれたら、こんなに心強いことはありません。

大規模修繕事業のプロセスは、大別すると、➀調査・診断➁設計(計画立案)➂工事―の三つの段階があります。設計コンサルタントは、建物の劣化診断を行い、修繕計画を立案し、管理組合に寄り添って施工会社の選定作業をサポートし、施工会社とやり取りしながら工事の終わりまでを監理してくれます。

設計コンサルタントを絡める大規模修繕の進め方を「設計監理方式」と言います。首都圏などではこの手法が主流であり、当協会も同手法を推奨しています。

前述のように、設計コンサルタントは、管理組合の総会や理事会においてもプロの知見で説明してくれますし、不足がちな長期修繕積立金の中でどのように修繕工事を計画するのかなどのアドバイスもくれます。また、その後、次なる大規模修繕に向けて、長期修繕計画の見直しを依頼することもできます。

「居ながら工事」という高いハードル

冒頭で、分譲マンションの大規模修繕は、他の建物の改修工事とは異なり、「特殊」であると申し上げました。それは「工事」自体についても当てはまります。

例えば、通常の県営団地や市営団地の改修工事を考えてみてください。行政が工事を行う際には、居住者を他の棟や他の団地へと一時的に転居させて一斉に進めます。工事を行うには一番効率がよく、安全な方法です。

分譲マンションの大規模修繕はそうはいきません。改修会社は、皆さんが住まった状態で、皆さんに危険がないように気を配りながら、皆さんの日々の暮らしを守りながら、何カ月にもわたる工事を行うわけです。本当に専門性の高い工事になります。

その上、マンションにはたくさんの方がお住まいですから、工事期間中、中にはあれこれ質問や苦情を言い出す方もいらっしゃいます。そういう苦情がないように、質問されてもしっかりと説明、対応のできる施工会社でなければなりません。

こうした事情から普通の建設会社では、「分譲マンションの工事は割に合わない」と最初から専門外として請負拒否の会社も多いわけです。

施工会社の選び方

施工会社を選ぶ際には、会社の資本金や規模、経営状況などに加え、特定建設業の許可、大規模修繕工事の実績、工事現場責任者(現場所長)の実績―などの条件設計を行って公募することになります。紹介しました通り専門性の高い工事になりますから、大規模修繕の実績や現場責任者の実績などは、要チェックになります。

しかし、この時、工事の規模が小さいのに必要以上に条件を厳しくしている募集をよく見かけます。これは選択できる会社の数を狭めてしまうだけです。サポートしている管理会社などが、特定の会社に受注させるための条件設定ではないかと疑ってしまうような場合もあります。

それより重要なのは、地元に拠点があるか否か、拠点がない場合はアフターメンテナンスの体制がしっかりしているか否かを、しっかりと見極める必要があります。大規模修繕は工事金額が大きいので県外業者も喜んで請け負いますが、日常の小さなアフターメンテナンスは受注金額が少額ですので交通費をかけてまでやってくるのは割に合わないのです。割高になるか拒否されるかといったことになりかねません。

書類審査を経て、数社からプレゼンテーションを受けて見積もりを提出してもらいます。決して金額だけで決めないことが重要になります。

設計コンサルタントからは、こうしたアドバイスを受けられるのが利点です。

専門コンサルタント、専門施工会社の不足

協会は「設計コンサルタントの導入を推奨する」と申し上げました。ここでいうコンサルタントは、ただの建築士ということではありません。建築士という職能は、新築に携わる方が圧倒的に多いのです。

もちろん、改修設計をやっておられる建築士の方もいらっしゃいますが、元の図面も残っていないような建物の劣化具合を調査して、診断して改修計画を立てるような仕事を本業とされているような建築士はなかなか見つかりません。さらに、分譲マンションは他の建物の改修とは一線を画すところがありから、マンションの大規模修繕に特化した、または精通したコンサルタントを選ぶ必要があるのです。

では、この専門の設計コンサルタントはどこにいるのでしょうか。実は、静岡県内には、2024年現在、数えるほどしか存在していません。県外のコンサルタントに頼るケースが増えています。

また、施工者選びのポイントとして「大規模修繕に関する実績を持ち合わせた、地元に拠点があるか会社」と申し上げました。ところが、こちらも2024年現在、地元静岡に本社があり、マンション大規模修繕の豊富な施工実績を有する会社はこちらも極めて少ないのです。首都圏などで実績豊かにして、しっかりと静岡にも拠点を置く企業まで含めても、今後の増大する需要に対応するには十分ではありません。

当協会、SRTAの紹介

「専門コンサルタント、専門の施工会社が不足しており、マンションにお住いの皆様が相談するところもなくお困りになられている」「静岡に拠点のないコンサルタントや施工会社を頼っている」―こんな状況が、10年前程前からしだいに増加しているのを見て、管理組合や行政の受け皿となる組織の必要性、地元の専門会社を育成する必要性を感じ、2020~2024年の勉強会を経て、2024年4月に発足したのが当協会になります。

当協会は、非営利法人であり、設計コンサルタントや工事会社の斡旋を行うものではありません。皆様方のご相談に耳を傾け、協会内企業の紹介はさせていただきますが、他頁などにも記載しております通り、紹介料などをいただくものではございません。

お困りのことがあれば、また、設計コンサルタントや専門の施工会社をお探しであればお気軽にご連絡ください。

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